ファミリーレストランで、心から店員さんに感謝の気持ちを述べているお客さんを、私は見たことがありません。
たとえばこんな風に。
「いやあ今日のランチは実に美味しかったよ。飲み物をすすめてくれるタイミングも抜群だった。本当にありがとう!また来るからね!」
私は見たことがありません。それは、ファミリーレストランがわるいのではありません。ファミリーレストランがそういうサービスをしない場所だからです。ファミリーレストランは、お客様が支払う値段相応のことさえすればいいのであって、お客さんの方もそれ以上のサービスを求めるのはお門違いなわけです。
ファミリーレストランのルールは厳格です。お客様への接客はつねに一定でなければなりません。いただいたオーダーは必ず先着順にテーブルに出さなければなりません。ハンバーグの添え物のインゲンはおそらく同じ本数でなければなりません。そういった厳格なルールが狂ってしまった時、クレームが発生します。
「どうしてこっちにはランチの説明をしてくれないんですか?(怒)」「どうして先に注文した私たちよりあっちのお客さんの食事が先に出されるの?(怒)」「すみません、こっちはインゲンが少ないんですけど?(怒)」
要するに、ファミリーレストランの現場の鉄則は、“ミスをおかさない” “全てのお客様に差をつけない” ということに重点が置かれています。それ以上の感動をファミリーレストランに求めるとしたら、それは客として横柄です。
だから「いやあ今日のランチは実に美味しかったよ!」なんて感動している常連さんがいたとしたら、逆にそれは問題です。今日のお客様と過去のお客様とで、美味しさの面で平等性を欠いたということですから。
ファミリーレストラン、大変だと思いますよ。本当に敬服します。だって、常にミスをおかしてはならないのですから。人間とは不思議なもので、ミスをおかさないように…ミスをおかさないように…と心配し続けていると、ミスを呼び込んでしまいます。心が縮こまってしまうのでしょう。うっかり、インゲンを1本少なく盛ってしまいます。「待ってました!」とクレーマー登場。インゲン1本くらいでねえ(笑)。
けれど、それがファミレスです。
幸いなことに(というのもおかしな表現ですが)エバーはファミレス的家づくりではありません。決まったメニュー表はありません。ご注文はお客様のご要望に応じて、となります。
そんな私たちのモットーとは、ミスを恐れて引き腰にならないことです。ミスを恐れることから入ってしまったら、お客様のご要望を叶える大胆な発想も、かつてない挑戦も、できなくなってしまいます。万人に愛される傑作ではなく、そのご家族に愛されるだけの傑作をつくるので、ファミリーレストランで起こりうる類のクレームなど、気にしたくありません。
それを円滑にするのは、お客様との良き信頼関係。ひとえにそれしかないように感じます。充分に理解し合った上で、エバーを選択していただいと思っています。お任せいただいた上は、必ずご納得のいく仕事をさせていただきます。