趣がありながら自然と景観に溶け込み、豪華でなくとも品格がある。そんな建物が、私は好きです。一中の目の前にある「湘南冨士美」もその一つです。雑然とした駅前に存続するような店ではなく、わざわざそこの味を求めて足を運ぶ価値のあるお店です。閑静な住宅街に抱かれ、心地よい潮風が吹く、そんな所にあります。
老舗の和菓子店にふさわしい、さりげない風格があり、こういう店こそ時の流れとともに消えて欲しくない、と常々思っていました。
そのお店が閉店になると聞いた時、エバーとして何かできることはないか、と皆で考えました。エバーグリーンホームが管理・運営するに至った理由というのは、そういう、実に素朴な思いからきています。もちろん、単なる地域へのボランティア的な精神だけでそうしたのではなく、エバーとしてのビジネスの側面を考えた上での結論でもあります。まあ、そうは言っても投資という面で回収できるのは遥か先のことなのかもしれません。それでも、我々の仕事というのは、こうした行為が大切なのではないかとも感じています。
そして、つい先日、私の元に朗報が舞い込んできました。ネットの「茅ヶ崎で行きたい蕎麦屋」第1位の「猪口屋」様が、旧「湘南冨士美」を借りたい、と言ってきてくださったのです。茅ヶ崎在住の方にとっては、本当に美味しい蕎麦が食べたい時に行く、そんなお店「猪口屋」。エバーのスタッフから、知人である経営者クラスのお歴々までもが「あそこは美味しいよね」と共感する、そんなお蕎麦屋さんです。ただいかんせん、現在のお店ではたくさんのお客さんが一度に入れません。「ああ、今日も入れないか」そんな思いでしぶしぶ諦める方も多かったことでしょう。
でも、旧「湘南冨士美」での新店舗なら、これからはそういうことがきっとなくなります。
考えてみると、エバーが建築プロデュースをしたお店はどこも大成功のようで、お店の皆様の努力には頭が上がらない思いです。先日1周年を迎えた柳島のフレンチ「ル・ニコ・ア・オーミナミ」、中海岸の名店「鮨裕」、そして今度の「猪口屋」様。どのお店も共通して駅から離れてはいますが、駅前にないからこそできるお店の在り方というのがあります。
駅前にある「不二家」のケーキは家で待つ子供達のためにあります。それとは異なり、駅から離れた評判のケーキ屋さんは美味しさの質も違うし、その質の違いを楽しむためにわざわざそこまで足を運ぶことに意味があります。名前を挙げたどのお店も、多くの方がそこまでして行きたいお店だということです。