努力して、試合に出て、勝つ。それはゴールでなく、スタートである。

私が子供の頃は、男子は誰もが野球でした。茅ヶ崎にはたしか10数もの少年チームがあったと思います。

彼は私より3つ年上でした。だから私が小3なら、彼は小6でした。野球が上手い子はすぐに友達の間で噂になる。彼はいつも噂の的でした。「6年生にさ、すんごい球投げるのがいるんだってよ!」「それ知ってるよ、めっちゃ速いピッチャーだろ!」…でも、それは彼にとってまだ夢の始まりでした。追いかけ続けた夢は、プロ野球のピッチャーとなり、数々の記録を打ち立て、史上最年長ノーヒットノーランを達成する偉業まで成し遂げました。そして彼は先日、今季での引退を表明しました。茅ヶ崎のグラウンドで驚くような速い球を投げていたその少年は、中日の山本昌選手です。プロ野球最年長での投手引退となりましたね。まさに「レジェンド」です。

話はラグビーワールドカップに変わります。南アフリカ相手に大金星をつかんだことで日本中が沸きましたね。ラグビーなんてはなから興味がない人でも話題にしていました。同じくラグビーなんてはなから興味がない私でさえ、その次のスコットランド戦をルール無知のままテレビ観戦し、興奮しました。強烈な肉体のぶつかり合いに「うわ、なんだこれは…」と圧倒的な感動を覚えました。南アフリカに奇跡の勝利、などとビッグニュースにならなければ、私はラグビーなどこの先永遠に観戦しなかったかもしれません。強くなったから、私を含めてとても多くの人が初めて注目したわけです。このことで、ラグビーに目覚め、将来は日本代表になる子供たちがたくさん生まれるかもしれません。

かつては国民的スポーツとも言われ、その後は衰退の一途をたどっていた、テニスというスポーツ。そこに彗星のごとく大スター、錦織圭くんが現れました。彼の活躍はテニスというスポーツの魅力をあらためて日本人に突きつけました。それまでさほど人気がなかった部活のテニス部が活況を呈するようになりました。

かつては男の子たちにとっては野球が全てのようなものでした。でも最近は実にたくさんの夢の入口があります。サッカーもJリーグができ、ワールドカップに出場するのが当然のようになると、れっきとした夢の入口として定着しました。プロ野球は言わずもがな、今度はラグビー熱が始まりそうな予感です。

しかし、時代は変わっても、注目されるものの数が変わっても、変わらないことというのがあります。それは「勝ってなんぼ」ということです。勝たなきゃ、話題にすらなりません。話題にすらならないことなど、人気にはなりません。人気がないことになんて、誰もサポートしようと思わないし、お金を払って観に行こうとも思いません。勝たなきゃ何も始まらないということです。簡単な理屈なだけに、それはとても深いものであると思わせます。

私たちエバーは、お客様にデザインを売っています。それだって実は毎回、勝ち負けを行っているようなものです。私たちの場合「勝つ」とは、一つをたとえて言うなら、アイデアを気に入っていただくことです。「負け」とは、その反対です。なるべく初戦で勝たなければならないし、結果は常に勝利しなければならないものです。そういった日々の勝ち負けから避けて通ることはできないのでした。

だからこそ、なおさら気をつけなければならないのだと思いました。それは、試合放棄すること、すなわち勝ち負けから逃げて、楽になろうとすることです。それを考えてしまった時、私たちにとっての次の試合というのは、もうないのだと思います。

楽をしたら、勝つことはおろか、試合にも出られません。スポーツであれ、どんなジャンルであれ、勝つ人は、それを知っているのだと思います。

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