特別な人 ~ 熱海にて

穏やかな熱海の町。海を望む素晴らしい斜面の一角に立っている。

傍らにはIさんがいる。この方は、私にとって最も大切な人のひとりだ。

Iさんは知らない人はいない著名な流通メーカーの創業者である。今は引退し後継者に引きついだ身だ。私がまだ柳島で独りで仕事をしていた頃、家づくりをお世話させてもらった。以来、弱輩者の私ではあるが一生懸命さを認めてくださり、以来何かとお声をいただいている。

Iさんがこの度、茅ヶ崎の自宅を出て熱海に新しい家をつくることになった。精魂こめて設計にあたろうと思っている。ちなみに私の設計による茅ヶ崎松ケ丘の御宅は、ひとり孤独ながら燃えさかっていた時代の象徴のような家だ。知らない人の手に渡るのは惜しまれるので私が引き継ぐことにした。Iさんも快く了承してくださった。

さて、この日は地鎮祭でこの地に来た。天気もよく、眼下に熱海の海がきらきらと輝いている。遠くに空、その手間に海、ぽっかり浮かぶ初島や伊豆半島が見える。そしてすぐ下に熱海の町並、美しい山の南斜面 。「別天地」というものがあるとしたらきっとこんな絶景だろう。いつまでもお若いIさんの新しい住処として、まさにふさわしい、晴れ晴れとした場所ではないか。

祈りとともに水晶の大玉を地に捧げるIさんの御姿を見て、その人生の大きさを感じるとともに、我を振り返り、身の引き締まる思いを感じた。