11月の走り読み

大方の人にとって、家は一生涯でいちばん大きな買い物です。それをつくるのは人間です。
しかしそれを台なしにするのも人間です。大臣認定を不正に取得していたニチアスの耐火偽装問題で、11月1日時点、軒裏天井材の社内対策費用に対しては、改善策のメドが何ひとつついていません。約6万棟の被害者が、未だ苛立つ以外になす術がない状況です。

性能試験に臨む際に、試験体に水を含ませたり、実際に販売するものより性能の高い材料を使ったり。後でどんなことが起きるか、普通 の常識ある人間なら(企業なら)しでかす前に察しがつくことを平気でやっています。製造コストを浮かすための作為だか何だかしらないが、コストのために嘘をつき続けることを選んで何万人という人々の夢を台なしにするなんて、非常識以前に何も考えていない証拠です。
とりあえず検査はパスしなければ、後のことは後で考えればいい、として、そしてそのまま放っておくなんて、後で帳尻を合わそうという知恵すらない異常な行為です。「火事で誰かが死ぬ まではきっとバレないから」という、擁護の余地のない思考の先送りです。何なんでしょう、誰かが死なないと反省しないのかな。

ニチアスの耐火材を採用していた大手ハウスメーカーなどは、自主的な改修工事を約束する等の対策で信頼の回復に急いでいます。
彼らにしてみれば御墨付の建材にあえて自主的な検査をする義務はなく、認定済みの建材をことあるごとにバーナーで焼いて「うん、これなら大丈夫だ」などとはしません。ましてやエンドユーザーは、もう信じるしかないんです。

そう、消費者は、信じるしかない。なのに建築に限らず、最近の様々な事件が、こういう、何も考えていない人々が巻き起こす人災ばかりです。
EverGreenHomeだって、被害者のひとりになっていたかもしれませんでした。そしてお施主様に対して加害者になっていたかもしれませんでした。そんなことを考えると本当にぞっとします。

ニチアスの問題が発覚したその頃、ちょうど世界的な建築家・安藤忠雄さんの大学での講演内容をネットで読んでいました。
「瀕死の地球を救うには、人間と自然との共生をもう一度再構築するしかない」と強く訴える安藤さんの仕事は、ほとんどが環境が最優先です。アフリカの貧困を救うために長期に渡って慈善活動を行っているロックバンドU2のボノ氏も安藤忠雄さんのファンであるらしく、その出会いのいきさつや交流を心地よく走り読みしていました。
一方で人間全体にかかわる大きな問題に向き合う人達がいて、一方で何ひとつ考えていない非常識以前の人達がいる。
ただのタイミングなのかもしれませんが、その二つの出来事を並行して読んでいた私は、なんだか人間という生き物自体が二極化しているような錯覚をおぼえました。