湘南はレッカー車が入れない現場が多くあります。レッカー車が入れる場所であれば木材のような資材を吊るして搬入することができますが、そうでない場所には、腕っぷしの強い人達が担いで運び入れます。そういう力仕事をする人達を、私たちは「かつぎ屋」と呼び、重宝させてもらっています。彼らは必要があれば呼び出され、その日の賃金を受け取ります。必ずしも毎日のように仕事があるわけではないので、本業の傍らで従事している人も多くいます。かつぎ屋の仕事が増えれば、彼らは自然と潤っていきます。
先日、そうした人達に、ふだんは何をしているのかを聞いてみました。すると、その人達は本業が格闘家でした。なるほど、それで腕力があるのか、と合点がいったわけです。そういえば腕なり脚なり、全体の骨格がそうしたトレーニングに勤しんでいる風体をしています。
「職人」というのは、技術を磨き経験を重ねて糧を得ています。一方、そうしたかつぎ屋のような人々は、肉体を資本に労苦の対価として糧を得ています。その違いは、肉体資本の従事とは異なり、職人は育てていく環境が必要です。かと言って職人を厚遇すればよい、という話ではなく、そのどちらもが満足を得ることができ、上手く現場が廻る工夫が必要であるということです。どちらも同じように欠かせません。
今年の夏は、輪をかけて現場は過酷でした。屋外は命に危険を及ぼす炎天下だし、施工する内部は遮断された中で熱中症と背中合わせの日々です。それは7月、8月とあり、そして9月中まで危険でした。おそらくこれからもそれは続くでしょう。私は常々思っています。果たしてそうまでしてこの危険な季節にスタッフを働かせる必要があるのだろうか?、と。お施主様との約束があるからそうしているのですが、この危険に対するご理解を踏まえてくださった上での契約を、お施主様の了解のもとでこれから行っていっても良いのではないか?と。
それは工期の終了を独自の思想で先延ばしにするということではありません。職人が技術を磨くための現場負担を軽減し、肉体従事者がその資質を十分に活用できるような、無駄のないシステマチックな人事を行い(それは他社との連携もあるのでしょう)、そうすることで夏の危険回避を行っていくことができるのではないか。そのためにどうしたらよいか?私は考えています。
私は社長ですが、このところずっと給料はもらわないことにしています。会社の財務上で私の報酬がゼロであれば、若いスタッフの3~4人くらいは雇うことができるだろう。マンパワーを増やし、職人は技術を磨く時間を多くとり、肉体従事者にはより効率的で安全な業務発注を行うことができれば、それに越したことはありません。きちんと気力、体力が回復できる安全な夏の現場にしていきたい、と試行錯誤しています。もっとも大切なのは、当たり前ですが、人の命です。