北面に市道、南面に山を背負う環境で、大屋根のビルトインガレージ付き建物と庭を配した計画です。広い敷地を利用して、できる限りのボリュームを平屋部分に集約し、プライベート空間と吹抜けのみを2階のレベルとし、それらを大屋根で包み込むような設計となっています。
車通りの多い市道に面しているため、喧騒から徐々にプライベートへ移行していくようなグラデーションを設け、それが建物の意匠として表れていくことを意識した結果の大屋根という形態です。
具体的動線としては、軒を出し、中間領域とした坪庭のある玄関ポーチから建物内に入り、採光を抑えた長い
廊下を抜けた先に吹抜けたLDK。さらに視線は縁側から庭へと移り、その先の豊かな自然へ向いていくようなシークエンスをめざしました。
客間を兼ねる和室のみ、あえて下屋にして南側の庭に突き出る平面形状とすることで、離れのような雰囲気を演出しています。
軒天井は米ヒバのクリアオイル塗装。外壁は職人にジョリーパットで表情をつくってもらい、そこにアクセントとなるようシャッター面材のレッドシダーを柿渋色に塗装。さらに土間を洗い出しで仕上げることで暖かみのある仕上げで統一しています。
内装の「和」のテイストはご夫婦共通のご希望です。真壁に左官仕上げのような純和風なものから和モダンといわれるシンプルなものまでの中から、手探りで好きな要素をさがしていきました。
主要にあるのは明るくなり過ぎない「静寂を感じる間」と、凛とした空気感を醸しだすこと。これらを可視化させるために、入口からの漆黒の床は世界観を出せたものと思います。
光沢のある黒い廊下を抜けるとくつろぎの空間につながっていきます。リビングダイニングは草木染めの柔らかな床材や和紙の建具が素朴で落ち着きを感じます。庭に面してある長い縁側の上に突き出している庇が影をつくっていて、庭の景色を静かに楽しめるようにしています。
玄関外部の縦格子はこの家のモチーフとなっていて、室内にもほうぼうに存在しています。
大屋根に「土壁」、草木染め、真鍮、それらが時間とともに味わいを増すことと思います。