南斜面の住宅地に建つ「平家を持ち上げたような家」の計画です。お施主様である若いご夫婦は、かつて祖父母様の住んだお宅を引き継ぎ、丁寧に住まわれていらっしゃいました。畳の続き間と庭が、軒下・縁側を介して密接に結びつく、平屋的な旧家屋です。その建て替えに際して、外部と内部の美しい関係性を継承するような住宅を、という考えから計画をスタートしました。
LDKを眺望の良い2階レベルに持ち上げ、幅の広いインナーバルコニーを挟む大開口とすることで、外部空間への平面的な広がりを持つ生活空間をつくり出しています。
また、室内からバルコニーをまたぐような屋根をかけることで、眺望や日照に対して滑りだして行くような空間としながら、強すぎる南面の日射や道路からの視線を気にせずに眺望を楽しめるよう計画しました。インナーバルコニーで反射した柔らかい光が室内を満たします。
敷地の2段擁壁を解消しながら緑の法面とし、斜面に沿うように屋根をかけることで、緩やかなかつてのランドスケープを生かすような計画としています。2階と1階がずれる左右非対称な立面は、建て替え前、廊下でつながっていた仲の良いご父母様の住む母屋との関係性を残しています。そして、リビングの大開口窓から幽玄な山の景色をのぞめる設計です。
室内はシンプルに、そして天然木をふんだんに使用することで、この景色に溶け込み、引き立てる仕上げとしています。
キッチン側に取った壁一面の収納は扉で全て隠せるようにし、勾配部分も壁に仕上げることで、一気に見渡せるLDK空間を雑多に見せない工夫をしました。
木の仕上げ面積のボリュームに対して一度に見える空間が大きいので、素朴になりすぎず適度にひきしまった印象になっています。春の山桜が楽しみな贅沢な空間です。