湘南を走るための美しいアメリカンビンテージカーを上質な空間に並べたい。奥には隠れたミュージックルームをつくって仲間と楽しみたい。大人の贅沢をみたす豪邸にも聞こえますが、少年が秘密基地について話すようなお施主様が印象的でした。
“ガレージハウス”というと、広い土間空間、羽目板、幅広シャッター、シーリングファン、排気ガス用換気扇といった定番を連想しますが、ラグジュアリーであることを考える時、豪華な材料を使ったり大きな空間をつくることよりも、ここでしかない固有の価値をつくることに重きを置きました。
敷地は、有料道路に接続するロードサイドにあります。幹線道路の喧騒から、北側の小川と斜面林に向かってゆったりと蛇行する間口15メートル、奥行40メートルの土地です。ここにまず、車の駐車寸法から導かれる間口13メートルのボリュームを置くことから計画はスタートしました。この大きな長方形平面を敷地形状を鋳型として、少し蛇行させることで特別な空間体験を作ることを考えました。
シャッターを開けると広がるガレージ空間は“く”の字に折れることで視覚的なパースを生み、求心的で疾走感ある車配置を可能にしています。
ガレージの奥、羽目板とタイルの目地が流れる先にある真鍮ハンドルを手掛かりに扉を開けると防音仕様のミュージックルームへとつながります。敷地形状からくる変形五角形は、ステージの奥行を確保し、演奏音の反響についても有利に働いています。コントラストを抑えたチェッカー柄のタイル、黒で統一した家具、上質な素材を使用し、シンプルにまとめることで「大人の」ライブハウスとしてステージの演者を引き立てる役割を担っています。ナラ材を基調としたバースペースは、カウンター後ろの防音扉を開けるとプライベート空間のエントランスとなります。
階段を上がり、あえて重量感をだした引戸を開けると明るい2階へ。リビングルームはあえて北向きに開くことで、安定した光やキラキラした新緑、小川のせせらぎを取り込んでいます。
1階は外界と切り離された非日常空間を演出する闇の黒、2階は外に開き住居に光を導く白、建物全体を上階と下階で色分けし、吹き抜け空間の演出にも利用しています。
2層分吹き抜けのガレージでは、天高を低く抑えた横長プロポーションの黒い空間に車を並べ、特大シーリングファンが回る大きな気積の白い空間とコントラストをつくり出しています。
1階から2階へ接続する階段室では、黒い段板を上がっていくと、徐々にハイサイドライトの光で満たされた白い空間に浮き上がっていく、非日常から日常へのグラデーションをつくり出しています。
外観は、近隣ロードサイドの倉庫とアメリカの納屋との折衷をイメージし、切妻の屋根・外壁ガルバリウム仕上げ。ガルバリウムの大波板を座金付きビスで固定していくことで、手仕事の痕跡が現れる外観としています。風景になじみながらもどこか異質な雰囲気を持つ、蛇行する謎めいた箱です。
森や近所のすきまに居場所を見つけ出した少年時代の秘密基地のように、周辺環境との関係性を見いだして結んでいくことで、大人達のラグジュアルな秘密基地につながっていくと考えました。