山の中腹に位置し、ヘアピンカーブに囲まれた特異な敷地。南側道路は2メートルほど下に、北側道路は2メートルほど上に、と高低差があり、さらに敷地の一部がレットゾーン(土砂災害特別警戒区域)、という難問地でした。
さまざまな行政庁との調整と各法的条件をクリアするためには、限られた配置、面積、高さ、構造でないと不可能でしたが、地の利を生かし自然に溶け込んだ邸が完成しました。
建物は長方形で玄関位置が限定されるので、1階は水廻りと1居室、2階はLDKと1居室のみと至極シンプルな間取りです。
シンプルが故に窓にメリハリをつけ、南面は木々を望む大開口やスケルトン階段を見せるためのFIXを、北面は木々を切り取る小さな額縁の様な印象としました。
2階のキッチンはあえて壁付けとし、最も抜けているヘアピンカーブ側に配置し、四季の移り変わりを感じられる窓を組み込んでいます。
外壁・軒天は屋久島地杉を採用、周囲の自然とともに今後の経年変化を楽しめる素材です。
玄関土間は、安息角で必要になった北側の高基礎を生かし、床共にモルタルで仕上げ、屋久島地杉と組み合わせることにより無機質と有機質のコントラストを生み出しています。
内装は、建物が敷地に沿うような細長のフォルムなので、内部空間もそれに沿うように遠近法を使い、天井高や間口狭さを感じさせないように心がけ、仕上げ材や照明も外の景色を邪魔しないようにトーンを落とし、数を絞ってレイアウトしました。
ちなみに、今年春に解体後の現場を訪れた際、目にした山桜をぜひここに住む方にサプライズしたいと思いました。そこで設計に相談し、窓のサイズ、位置、その周辺の意匠を肉付けしていきました。
山桜の季節は過ぎましたが、エバーが心奪われ、癒されたサプライズの山桜を、この先この場所で心豊かに感じていただけたら幸せです。